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コンスタンティノープルの陥落 (新潮文庫)
コンスタンティノープルの陥落 (新潮文庫)
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カスタマレビュー
簡潔にまとまった歴史の醍醐味を味わう ( 2008-03-21 )
塩野氏の著作は「海の都の物語」「ローマ人の物語」などいろいろ読んだが、本書に一番感銘を受けたし、特に若い人に薦めるなら絶対に本書である。なぜなら書かれている内容が、ある都市の陥落というテーマから見ても時間的にも限定された話で、まるで試験管の中の化学変化を見ているようにプロセスがよくわかること。しかもその都市がヨーロッパとアジアの境界に千年に渡って君臨し、これほど歴史が凝縮された都市がドラマチックに滅びた例は、世界史上類例を見ないこと。また中世の話で史料が比較的豊富に残っていて、その攻防戦の結果が近代史にどういう影響を与えたのか、読者に自然と考えさせる内容になっていることが素晴らしい。さらに小説のようなスタイルで書かれているため、感情移入がしやすい。わたしが歴史教師だったら、夏休みの課題図書に指定して、生徒に世界史がどういうものか考えさせるだろう。
塩野氏は公平なスタンスを取ろうと努めているが、それでも微妙に西欧の視点に偏っている点は留意すべきである。オスマントルコは支配を受け入れる相手には、宗教的に寛容だった。それに比べれば、カトリックの十字軍はカトリック教徒以外は人間扱いしなくていいと考えていたふしがあり、ギリシャ正教徒に対して暴行・略奪を働いた例も多かった。また正教徒がカトリック支配地域に逃げ込むと、カトリックへの改宗を迫られたため、正教徒にとってトルコ人とカトリックのどちらがましだと考えていたのかは、一概には言えない。簡潔にまとめると、アレクサンダー大王の征服戦争は偉業だが、マホメット2世の征服戦争を悪業だと見なすのは、西洋人の視点なのである。
本書を読んでとうとう現地に行ってしまった。地形はもちろん当時のままだし、建造物がよく保存されているので、歴史絵巻が目の前にあるような気がして感動した。現地で出会ったギリシャ人観光客が、ここは元々ギリシャの街だったと言っていたのが印象に残っている。外観は想像した以上にヨーロピアンスタイルの街で、モスクさえなければヨーロッパの街で充分通用するだろう。しかしじっくり観察するとイスラム教徒の国だとわかる、そんな印象を受けるすばらしい街だった。
マルチ・アングルで観る歴史映画のような素晴しい小説 ( 2007-03-21 )
本作は1453年のコンスタンティノープルの陥落=東ローマ帝国の滅亡という歴史的瞬間に焦点を合わせた小説である。攻撃側の大将オスマン・トルコのスルタン・マホメッド2世と防御側の東ローマ帝国皇帝コンスタンティヌス11世が主要な登場人物になるのは当然として、他に多くの現場証人を登場させている。ヴェネツィア艦隊の司令官、艦隊付きの青年医師、フィレンツェ商人、トルコに味方する(させられる)セルビア軍人、東西教会合同を推進する枢機卿、それよりもギリシャ正教の信仰を守りたいとする修道士と彼の友人のイタリア人であるカトリック教徒、ジェノヴァ居留区の代官といった人たちである。本書はトルコ軍と東ローマ軍・ヴェネツィア軍との戦いをこれらの人の見聞きしたことを通じて克明に描いている。地中海貿易の拠点として、そして諸宗教・諸民族の接点としてのコンスタンティノープルの最後を多角的に描いた構想が素晴しい。一つの国・文明が滅びる瞬間に対して公平に敬意をもって描こうとする作者の態度に敬服する。もちろん、実際の戦闘の様子やその中で繰り広げられる個々人の心理的葛藤の描写も優れている。間違いなく、作者の歴史小説の代表作である。是非本書を一読することを薦める。
「…いっそのこと死を選ばれよ」 ( 2007-03-21 )
細かな情景や人物の描写はさすが塩野先生という感じであたかもその時その場にいるかのような印章をあたえてくれました。当時のビサンティンの人々は自らの都を最高の言葉で褒め讃えておりその一つにこのようなものがあります。“我らが都が冠するは正十字を掲げた崇高なる皇帝の名であり双頭の大鷲がおりるに相応しき地にある。その美貌と繁栄はまさに、光のごとし”皆さんにも是非この光の都の落日をこの本で目の前で味わっていただきたいです。
中世のロマン豊かな歴史絵巻 ( 2006-11-03 )
作者の「地中海戦記」三部作の第1作。ローマ史研究の第1人者として定評ある作者が、地中海に場を広げ、1千年以上続いたビザンチン帝国(古代東ローマ帝国)の終焉を描いた歴史絵巻。この戦いは十字軍に端を発する領土問題でもあり、キリスト教vsイスラム教の宗教問題でもある。コンスタンティノープルは勿論現在ではイスタンブールと呼ばれているが、何故か日本人にも郷愁を誘う街だ。海峡を挟んで東側はアジア風、西側はヨーロッパ風の魅力的町並みだそうだ。
登場人物は多いが、当時のオスマントルコの若きスルタン・バグダッド二世を中心に描かれている。彼の一言がコンスタンティノープル陥落のキッカケにもなっており、無鉄砲とも思われる彼の性格が結果的に英雄の称号を彼に与えた。この他、作者の専門とも言えるヴェネツィア帝国を初めとするローマの諸国の人々が描かれるが、何と言っても驚かされるのは作者の得意分野とは思えない戦闘場面が巧みに描かれていることだ。
防護側の城壁の様子、戦闘用帆船の描写等、当時の資料を良く調査した後が窺がえる。また、オスマントルコ軍は先兵に捕虜を使うが、その先兵の強さの秘密など興味深い話題も多い。コンスタンティノープルの陥落はキリスト教文明(ヨーロッパ文明)、イスラム文明双方に影響を与えた中世の一大事件であり、それを華麗な歴史絵巻にして見せてくれる快作。
人類の星の時間 ( 2006-10-09 )
若いころ読んだステファン・ツヴァイクの『人類の星の時間』という書がある。ツヴァイクはその序で「世界史の中で一つの天才の意思が白熱化して決定的になるとき、それはしばしば一分間に圧縮されるような劇的な緊密な時間が、数十年数百年のための決定をする、あるいは全人類の運命の径路を決めさえもする」とし、この時を『星の時間』と呼んでいる。この『時間』の中に『ビサンチンの都を奪い取る-1453年9月29日』としてコンスタンチノープルの陥落が取り上げられている。また、豊田譲の『艦隊山越え』も同じテーマを扱っている。迂闊にもこの二冊を読んでいたせいか(塩野七生の)本書を読んだものと錯覚していた。このほど誤りに気がついて遅ればせながら読んだ。
塩野七生氏は、攻める側オスマントルコ・スルタン・マホメッド二世、守る側ビサンチン皇帝・コンスタンティヌス十一世を軸に、登場人物を適宜・周到に配して物語を多面的・立体的に進めていき、あたかも歴史の現場にいるように読者を小説に引き込む。東地中海貿易に権益の大きい二つの海洋国家、ヴェネティアとジェノヴァは軍事を含めて政治的にどう動いたか? 現代の政治にも通じるものがある。そしてローマ法王との止むをえずの宗教的和解。
それにしてもマホメッド二世という「たった一人の強い意思」が、ツヴァイクがいうように、その後の世界を決定したことが実感をもって感じられる。
塩野七生氏の登場人物の一部は、架空の設定かと思っていたが、本人の著作・記述など、それぞれ根拠があり、考証も行き届いている。小説として面白いだけでなく、近代ヨーロッパの生い立ちを知る上でも常識として読んでおくべき書である。
ISBN-10: 4101181039
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Last modified: 2008-08-30

